1.目的
各種のアルコールを試料として、熱伝導度検出器を備えたガスクロマトグラフを用い、定性・定量分析を行う。得た結果を用いて、保持容量と炭素数の関係、補正面積百分率法や絶対検量線法などの基本事項について理解する。
2.試薬
今回の実験で用いた試薬について、基本的な物性値などを書く。
表1 試薬
|
分子量 |
沸点 (℃) |
融点 (℃) |
ether |
46.07 |
-5.37 |
-139.11 |
acetone |
58.08 |
48.97 |
-100.14 |
methanol |
32.04 |
41.52 |
-111.79 |
ethanol |
46.07 |
64.40 |
-100.52 |
1-propanol |
60.09 |
87.28 |
-89.25 |
2-propanol |
60.09 |
86.84 |
-104.28 |
1-butanol |
74.12 |
110.16 |
-77.98 |
1-pentanol |
88.15 |
133.04 |
-66.71 |
isoamylalcohol |
88.15 |
132.60 |
-81.71 |
3.実験操作
(1)アルコールの定性分析
(i)石鹸膜流計によってキャリヤーガス(ml/min)を測定した。
(ii)上記の炭素数1〜5のアルコール溶液7種をマイクロシリンジで1μl採取しGCに注入した。
(iii)ストップウォッチでピークの保持時間tRを測定した
(iv)各成分について2回測定を行った。
(v)空気5μl採取し、GCに注入してからピークが出るまでの時間tR0をストップウォッチで計った。
(vi)クロマトグラムから保持時間tRと保持容量vRを求め、エタノールを基準として保持値αを計算した。
(2) 補正面積百分率法による定量分析
(i)テキスト表8.2のように、アルコールの成分量が既知の標準混合試料を50mlの共栓つき三角フラスコで調製した。
(ii)標準混合試料5μlをマイクロシリンジで採取し、GCに注入しクロマトグラムを描き各成分のピーク面積の測定を3回行った。
(iii)未知試料溶液5μlを取り、クロマトグラムを得た。
(iv)各成分のピーク面積をそれぞれの成分について相対重量感度で割り、検出感度の違いを補正したピーク面積を算出してから含有率を求めた。
(3)絶対検量線法による定量分析
(i)1-ブタノール(n-ブタノール)をマイクロシリンジで0.4,0.8,1.0,2.0,3.0μl採取し、GCに注入した。
(ii)各採取量で3回ずつクロマトグラムを描き、成分のピーク面積を測定した。
(iii)横軸に濃度、縦軸にピーク面積として検量線の作成を行った。
(iv)未知試料溶液5μlをマイクロシリンジに採取した。
(v)検量線作成と同一条件の下でクロマトグラムを2回描き、対象成分のピーク面積と検量線から濃度(g/l)を求めた。
3.結果
(1)1日目
(i)ガスクロマトグラフの設定
・ヘリウムボンベの2次圧 2.5〜3.0kg/cm2
・Oven temp 1.8(90℃)
・感度 Current 100mA(polarity)
・レコーダーのChart speed
10mm/min
(ii)空気の保持時間t0の測定
表2 空気の保持時間t0
|
1回目 |
2回目 |
平均 t0 |
t0 (sec) |
15.41 |
15.97 |
15.69 |
(iii)キャリヤーガスの流速F (ml/min)
表3 測定値
|
1回目 |
2回目 |
平均 F’ |
F’ (sec/10ml) |
19.41 |
19.23 |
19.32 |
求めるF(ml/min)の値は、F’を容量(ml)で割り、その逆数に60をかければ良い。
F = 10/F×60 = 10 / 19.32×60 = 30.055=30.06(ml/min)
よって、F=30.06(ml/min) = 0.5176(ml/sec)である。
(iv)各種アルコールの保持時間と保持容量の算出
保持時間,調整保持時間,保持容量,相対保持値をtR,tR’,VR,αとする。
表4 アルコールと測定値,物性値
|
tR1 (sec) |
tR2 (sec) |
t0 (sec) |
tR' (sec) |
VR (ml) |
α |
分子量 |
沸点(℃) |
methanol |
38.49 |
38.67 |
15.69 |
22.89 |
19.97 |
0.6987 |
18.02 |
41.52 |
ethanol |
48.45 |
48.45 |
15.69 |
32.76 |
25.08 |
1.000 |
32.04 |
64.4 |
1-propanol |
88.5 |
87.76 |
15.69 |
72.44 |
45.62 |
2.211 |
46.07 |
87.28 |
2-propanol |
46.2 |
46.02 |
15.69 |
30.42 |
23.87 |
0.9286 |
46.07 |
86.84 |
1-butanol |
166.72 |
166.07 |
15.69 |
150.705 |
86.13 |
4.600 |
60.09 |
110.16 |
1-pentanol |
305.92 |
306.03 |
15.69 |
290.285 |
158.37 |
8.861 |
74.12 |
133.04 |
isoamylalcohol |
246.38 |
240.63 |
15.69 |
227.815 |
126.04 |
6.954 |
74.12 |
132.6 |
また、調整保持時間と炭素数,調整保持時間と沸点の関係をそれぞれ下記の図1、図2に示す。ただし、対数は常用対数を用いた。
図1 調整保持時間と沸点
図2 調整保持時間と炭素数
調整保持時間は、保持時間や保持容量,相対保持値と一定の関係がある。すなわち、調整保持時間の代わりに、保持時間や保持容量,相対保持値を用いても傾きやy軸の値が換わるだけで、ノーマルアルコールの直線関係は維持される。また、炭素数の増加での調整保持時間の増加の傾向や、沸点による調整保持時間の増加の傾向はアルコールの種類にかかわらず、一定の傾向が読み取れる。
図3 保持容量と炭素数
図4 保持容量と沸点
保持時間は炭素数の増加の二乗に比例して長くなることがわかる。また、保持時間の増加に関してはアルコールの構造による影響は少ないと考えられる。保持時間と沸点の関係についても同様の事が言える。すなわち、炭素数と沸点の間のには一定の比例関係が成り立つのではないだろうか。
(2)2日目
(i)ガスクロマトグラフの設定
・ヘリウムボンベの2次圧 2.5〜3.0kg/cm2
・Oven temp 1.8(90℃)
・感度 Current 100mA(polarity)
・レコーダーのChart speed
20mm/min
(ii)補正面積百分率法による定性分析
標準混合試料の組成比と、実験で得られた保持時間とクロマトグラムの各ピーク面積などを下記の表5に示す。
表5 標準混合試料
|
エタノール |
プロパノール |
ブタノール |
ペンタノール |
採取量 (g) |
0.9995 |
1.2289 |
1.5317 |
1.8020 |
分子量 |
46.068 |
60.094 |
74.120 |
88.146 |
物質量 (mol) |
0.02170 |
0.02045 |
0.02067 |
0.02044 |
保持時間 (sec) @ |
54.84 |
94.22 |
178.84 |
348.24 |
A |
55.19 |
94.38 |
179.13 |
347.90 |
B |
54.94 |
94.08 |
178.74 |
347.52 |
平均 |
54.99 |
94.23 |
178.90 |
347.89 |
ピーク面積(cm2) @ |
5.34 |
6.48 |
7.60 |
8.36 |
A |
5.30 |
6.21 |
7.49 |
8.58 |
B |
5.04 |
6.29 |
7.80 |
8.29 |
平均 |
5.22 |
6.33 |
7.63 |
8.41 |
ただし、ピーク面積の算出方法は半値幅法を用いた。半値幅法はピークを三角形と近似して、ピークの高さhとh/2の高さでのピーク幅dとの積hdをもって、面積に相当する値とする方法である。今回の標準混合試料のクロマトグラムを採集ページに添付し、グロマトグラムでの半値幅法の方法も図示した。
このクロマトグラムのピーク面積傾向は物質量がほぼ等しいが、ピーク面積が分子量の増加に伴い大きくなる。ピーク面積の誤差は測定者による誤差と、試料の採取量の誤差、炭素数が少ないアルコールの揮発によるものだと考えられる。また、半値幅法を用いたために近似値しか得られないために、二等辺三角形から形がずれたり、鋭角三角形になったため誤差が大きくなったのだろう。
(iii)重量感度・モル感度
混合試料の各成分において、重量感度とモル感度を算出した。次にエタノールの重量感度とモル感度を基準として、他成分の相対重量感度と相対モル感度を算出して、各結果をそれぞれ表6、表7に示した。また、重量(モル)感度と相対重量(モル)感度は以下の式から算出した。
表6 重量感度と相対重量感度
|
エタノール |
プロパノール |
ブタノール |
ペンタノール |
重量感度 @ |
5.34 |
5.27 |
4.96 |
4.64 |
A |
5.30 |
5.06 |
4.89 |
4.76 |
B |
5.04 |
5.12 |
5.09 |
4.60 |
相対重量感度 @ |
1.00 |
0.987 |
0.929 |
0.869 |
A |
1.00 |
0.953 |
0.922 |
0.897 |
B |
1.00 |
1.016 |
1.010 |
0.913 |
平均 |
1.00 |
0.986 |
0.954 |
0.893 |
表7 モル感度と相対モル感度
|
エタノール |
プロパノール |
ブタノール |
ペンタノール |
モル感度 @ |
246 |
317 |
368 |
409 |
A |
244 |
304 |
363 |
420 |
B |
232 |
308 |
377 |
406 |
相対モル感度 @ |
1.00 |
1.29 |
1.50 |
1.66 |
A |
1.00 |
1.24 |
1.48 |
1.72 |
B |
1.00 |
1.33 |
1.63 |
1.75 |
平均 |
1.00 |
1.29 |
1.54 |
1.71 |
炭素数の増加に伴い重量感度は小さくなったが、逆にモル感度は大きくなった。重量感度では採取量(g)の違いによるためであるが、各成分の物質量はほぼ等しいのでモル感度もほぼ等しい値を取ると予想できる。しかし、実際は炭素数の増加に伴いモル感度も増加している。ピーク面積の大小は、機器の各成分に対する感度の違いに影響される事が分かる。
(iv)補正ピーク面積と含有率
未知試料についてピーク面積を測定し、検出感度の違いを補正したピーク面積を算出して、含有率を算出した。その結果を表8に示す。また、補正ピーク面積と含有率は以下の式で算出した。
表9 濃度未知試料の含有率
|
エタノール |
プロパノール |
ブタノール |
ペンタノール |
ピーク面積(cm2)
@ |
4.29 |
4.79 |
11.4 |
7.84 |
A |
4.23 |
4.31 |
12.7 |
6.72 |
B |
3.99 |
4.78 |
11.6 |
7.02 |
重量補正ピーク面積(cm2)@ |
4.29 |
4.86 |
11.97 |
8.78 |
A |
4.23 |
4.37 |
13.35 |
7.53 |
B |
3.99 |
4.86 |
12.20 |
7.87 |
モル補正ピーク面積(cm2) @ |
4.29 |
3.73 |
7.44 |
4.59 |
A |
4.23 |
3.35 |
8.30 |
3.93 |
B |
3.99 |
3.72 |
7.58 |
4.02 |
重量含有率(wt%) @ |
14.3 |
16.3 |
40.0 |
29.4 |
A |
14.3 |
14.8 |
45.3 |
25.5 |
B |
13.8 |
16.8 |
42.2 |
27.2 |
平均 |
14.2 |
16.0 |
42.5 |
27.4 |
モル含有率(wt%) @ |
21.4 |
18.6 |
37.1 |
22.9 |
A |
21.3 |
16.9 |
41.9 |
19.9 |
B |
20.7 |
19.3 |
39.3 |
20.8 |
平均 |
21.1 |
18.3 |
39.4 |
21.2 |
重量含有率(wt%)をモル含有率(mol%)に変換しても同一の値が得られた。この事から、計算結果が間違っていないと言う事になる。含有率が最も多かったのは、重量含有率・モル含有率問わずブタノールであった。
(3)絶対検量線法による定性分析
1-ブタノールの各採取量でのクロマトグラムから、検量線を作成するためにデータを表10にまとめた。また、下記の図5に1-ブタノールの検量線を示す。
表10 ブタノールの絶対検量線法のデータ
採取量 |
ピーク面積(cm2) |
平均ピーク 面積(cm2) |
標準偏差 |
変動係数 |
0.4μl @ |
2.81 |
2.56 |
0.219 |
0.0856 |
A |
2.41 |
|||
B |
2.45 |
|||
0.8μl @ |
5.16 |
4.86 |
0.289 |
0.0594 |
A |
4.58 |
|||
B |
4.85 |
|||
1.0μl @ |
5.63 |
5.46 |
0.144 |
0.0263 |
A |
5.38 |
|||
B |
5.38 |
|||
2.0μl @ |
11.1 |
11.0 |
0.228 |
0.0208 |
A |
11.3 |
|||
B |
11.1 |
|||
3.0μl @ |
17.2 |
16.9 |
0.408 |
0.0241 |
A |
16.9 |
|||
B |
17.0 |
図5 ブタノールの検量線(採取量)
図6の横軸を濃度に変換する。ただし、1-ブタノールの密度を0.810(g/l)として、未知試料5μlとする。そうすると、図5の検量線は図6のようになる。
図6 1-ブタノールの検量線(濃度)
図6の検量線から未知試料溶液の定量を行った。条件は検量線作成と同じしでクロマトグラムを描き、ピーク面積と図6の検量線から濃度を求めた。また、図6の検量線の式はy=0.0339x+0243である。この直線の平均二乗誤差は0.9983である。この式を用いて、1-ブタノールの定量を行った。ピーク面積とは1-ブタノールと考えられるピークの面積(cm2)を用いた。
表11 未知試料中のブタノール
|
1回目 |
2回目 |
3回目 |
ピーク面積 (cm2) |
11.41 |
12.73 |
11.63 |
未知試料の濃度(g/l) |
325.2 |
363.7 |
331.6 |
上記の表11の未知試料の1-ブタノールの濃度の平均を求めると、340.1 (g/l)となる。この際に用いたクロマトグラム(図7)を最終ページに添付する。
4.課題
(1) 熱伝導度検出器の原理
TCDは4個のフィラメントを金属ブロック中に組込んだもので、2個ずつ4個を組として、対照側セルにはキャリヤーガスのみを、試料側セルにはカラムから出たガス(試料とキャリヤーガス)を通す。また、対照側と試料側を隣接する二辺としてホイートストンブリッジを組む。
原理は試料側セル、対照側セルどちらにもキャリヤーガスが流れている状態でブリッジを平衡させておく。試料を注入すると、キャリヤーガスと熱伝導率の異なる溶出成分が試料側にはいる。そうするとフィラメントの温度twが上がり、電気抵抗が増加する。変化の程度は、キャリヤーガスの熱伝導率およびフィラメントとセル内壁との温度差twーteに依存する。
(2)キャリヤーガスの選択
基本的には、熱伝導率の大きいキャリヤーガスを用いた方が感度は各成分の感度差が小さくなる。しかし、キャリヤーガスが試料気体と反応しうることも考慮しなければならない。今回の混合気体の主成分、水素,酸素,窒素,メタンの中で最も熱伝導率の大きく、反応性の低い水素を用いるのが適当であると考えられる。
(3)トリハロメタンの検出器の選択
トリハロメタンは、有機ハロゲン化物である。JIS規格の化学分析の規格、K0125の5.1、5.2、5.3.1、5.4.1、5.5に該当する検出方法で検出する必要性がある。該当方法の検出器はどれも電子捕獲検出器によるものである。すなわち、電子捕獲検出器を搭載したGCで検出するのが望ましい。
5.参考文献
荒木 峻 著:現代化学シリーズ11 ガスクロマトグラフィー,東京化学同人,1981
白井恒雄,厚谷郁夫共著:機器分析化学の基礎,丸善株式会社,1985
江藤守總編著:機器分析の基礎,裳華房,1998
玉虫文一ら編集:理化学事典 第3版増補版,岩波書店,1986
JIS K0125