1.目的
比色分析と吸光光度法は、微量成分を迅速正確に定量するのに用いられる方法である。近年技術の進歩により、比色分析はほとんど吸光光度法で測定するようになっている。吸光光度法は分子やイオンの化学種の光の吸収特性を利用して、目的成分の濃度などを定量する方法である。
今回の実験では比較的簡単な光度計を使用して、水溶液中のFe2+を定量する。Fe2+は2,2’-dipyridylと反応して赤色の安定な錯塩を作る。錯塩の吸収スペクトルや最適条件(pHや組成比)などを調べ、光度計の操作を習得し、動作原理を理解してハンバート・ベールの法則を用いて吸光度や吸光定数を算出する。
2.実験原理
実験原理に深くかかわっている法則、Lambert(Bouguer)-Beerの法則について記述する。Lambert(Bouguer)-Beer法則は、Lambert(Bouguer)の法則とBeerの法則を組み合わせて導出される。
○Lambert(Bouguer)の法則:入射光が溶質によって吸収される割合は溶質層の厚さLに比例。光が物質を通過するとき、入射光の強度I0と透過光の強度lt の比(l0 /It)の対数は溶液層(物質層)の厚さLに比例する。
log(l0 /It) =a’L
(a’は比例定数)
○Beerの法則:入射光が溶質によって吸収される割合は溶質の濃度c に比例する。光が物質を通過するとき、入射光の強度I0と透過光の強度lt の比(l0 /It)のは溶液層(物質層)の濃度c に比例する。
log(l0 /It) =a”c (a”は比例定数)
両法則を組合せると、
log(I0 /lt ) =εc L (εは比例定数)
と、Lambert(Bouguer)-Beer の法則が導出できる。c がモル濃度の時、εはモル吸光係数である。吸光度[-],吸光度[-],モル吸光度をそれぞれT,A,εと定義すると以下のようになる。
T = It /l0
A = log (1/T) =−log (T) =log(I0 /lt ) =εc L
ε = A /cL
3.実験操作
(A)光度計の使用方法とセル補正
(1)光度計の使用方法
(i)光度計のスイッチを入れ、20〜30分待ってから測定する波長のフィルターを測光部に合わせる。
(ii)最初に精製水入れたセルを光路上のセルホルダーに入れ、感度調節つまみを回して0%合わせをし、シャッターを開き100%合わせをする。
(iii)セルホルダーのハンドルを手前に引き、試料溶液の入ったセルが光路に入る。0%合わせをして、シャッターを開きメーターのふれ(透過率[%])を読み取る。
(2)セル補正
(i) 光度計のスイッチを入れ、20〜30分待ってから測定する波長のフィルターを測光部に合わせる。
(ii)2つのセルを精製水で2〜3回すすいだ後、精製水をセルの2/3程度まで入れ、セルホルダーに入れる。手前のセル(対照試料)を使って、0%合わせと100%合わせをする。
(iii)セルホルダーのハンドルを手前に引き、0%合わせをした後、シャッターを開けて透過率[%]を読み取る。
(B)Fe2+の定量の最適条件の検討
(1)Fe2+標準試料の調製
用意されているモール氏塩の標準原液(1.00×10-2[mol/L])10mlをホールピペットで500mlメスフラスコに移して、メスアップする。
(2)測定波長の選択
Fe2+標準試料10mlをホールピペットで50mlメスフラスコにとり、塩酸ヒドロキシルジアミン溶液2〜3滴、2,2’-dipyridyl溶液2mlをホールピペットで、2M酢酸ナトリウム溶液2mlも順次それぞれ加えてメスアップする。20分程度の一定時間放置後、この溶液をセルに少量移し数回共洗いして、セルに2/3程度溶液を入れる。セルに付いた水滴をふき取り、光度計の光路に置き、フィルターを順次替えていき、各波長の吸光度を対照液を精製水として測定する。
(3)pH変化の影響
実験操作(B)の(2)で酢酸ナトリウム水溶液を用いた。その代わりに、下記の各9種の溶液を添加して、着色した溶液の透過度およびpHを測定する。
表1 使用する試薬
記号 |
試薬 |
濃度 [mol/L] |
容量 [ml] |
(a) |
HCl |
6 |
1 |
(b) |
HCl |
0.6 |
1 |
(c) |
CH3COOH |
6 |
1 |
(d) |
酢酸緩衝溶液*1,*2 |
6 |
2 |
(e) |
酢酸緩衝溶液*1,*3 |
6 |
2 |
(f) |
CH3COONa |
2 |
2 |
(g) |
NH4OH |
1 |
1 |
(h) |
NH4OH |
6 |
1 |
(i) |
NaOH |
6 |
1 |
注)*1;酢酸緩衝溶液とは6M酢酸溶液と2M酢酸溶液を混合したものである。
*2;6M酢酸溶液と2M酢酸溶液の混合比は1:1
*3;6M酢酸溶液と2M酢酸溶液の混合比は3:10
(4)呈色錯体の組成の決定
錯体生成は段階的に進行するので、実験で得られる鉄(U)キレート陽イオンの吸収スペクトルがどのような組成であるか検討する必要がある。
(i)実験操作(B)の(3)で検討した最適条件を用いて、2,2’-dipyridyl溶液量をモル比でFe2+の1,2,3,4,6,8,10倍になるように溶液を調製する。
(ii) 20分程度の一定時間放置後、溶液をセルに少量移し数回共洗いして、セルに2/3程度溶液を入れる。セルに付いた水滴をふき取り、光度計の光路に置き、最適波長のフィルターにして、各溶液の吸光度を対照液を精製水として測定する。
(5) 検量線の作成
(i) 実験操作(B)の(2)〜(4)で結果を用いて、検量線を作成するために最適条件を整理する。
(ii)50mlのメスフラスコを用いて、Fe2+の標準溶液から濃度0〜5mg/Lの測定用溶液を調整する。
(iii)調製した溶液を用いて、検量線を作成する。
(6)吸光係数の算出
実験操作(B)の(5)で得られた結果を用いて描かれる検量線から、ランバート―ベールの法則からモル吸光係数を算出する。
(7)未知試料中のFe2+の定量
未知試料A,B,C,Dがある。各試料中に含まれるFe2+の含有量を透過率を調べて検量線から求める。
3.結果とまとめ
(1)1日目
(i)セル補正
セル補正の結果を各レンジ(フィルター)ごとに下記の表2にまとめた。
表2 セル補正(1日目)
レンジ |
wave length |
transmittance1 |
transmittance2 |
average absorbance |
1 |
420 |
99.0 |
99.0 |
0.004365 |
2 |
460 |
99.1 |
99.1 |
0.003926 |
3 |
517 |
99.2 |
99.2 |
0.003488 |
4 |
532 |
98.9 |
99.0 |
0.004584 |
5 |
562 |
98.8 |
99.1 |
0.004585 |
6 |
655 |
99.1 |
99.2 |
0.003707 |
(ii)最適波長の選択
各レンジ(フィルター)の波長で測定された結果を下記の表3にまとめた。
表3 波長と吸光度
レンジ |
wave length |
transmittance1 |
transmittance2 |
average absorbance |
corrected absorbance |
1 |
420 |
76.2 |
76.1 |
0.11833 |
0.11397 |
2 |
460 |
62.0 |
62.0 |
0.20761 |
0.20368 |
3 |
517 |
50.0 |
50.0 |
0.30103 |
0.29754 |
4 |
532 |
51.9 |
52.0 |
0.28441 |
0.27983 |
5 |
562 |
79.7 |
79.8 |
0.09827 |
0.09368 |
6 |
655 |
98.1 |
98.1 |
0.00833 |
0.00462 |
また、上記の表3の値を用いて図1を作成した。
図1 吸光度と波長の関係
(iii)pH変化による影響
(ii)の実験の結果より、測定された透過率から算出された吸光度が最も良い感度を示したレンジ3を最適波長とした。選んだ理由については考察に書く。
表4 pHと吸光度
試薬 |
pH |
transmittance1 |
transmittance2 |
average absorbance |
corrected absorbance |
(a) |
1.21 |
66.0 |
65.9 |
0.1808 |
0.1773 |
(b) |
2.09 |
57.0 |
57.2 |
0.2434 |
0.2399 |
(c) |
3.00 |
49.9 |
49.6 |
0.3032 |
0.2997 |
(d) |
4.19 |
50.1 |
50.0 |
0.3006 |
0.2971 |
(e) |
4.72 |
49.8 |
49.8 |
0.3028 |
0.2993 |
(f) |
6.20 |
49.8 |
49.9 |
0.3023 |
0.2988 |
(g) |
9.80 |
60.9 |
60.7 |
0.2161 |
0.2126 |
(h) |
10.92 |
70.2 |
70.2 |
0.1537 |
0.1502 |
(i) |
12.93 |
84.9 |
84.7 |
0.0716 |
0.0681 |
図2 吸光度とpHの関係
(2)2日目
(i)セル補正
1日目の結果から最適レンジと考えられるレンジ3について、対照試料である精製水での測定用セルの透過率を調べた。
表5 セル補正(2日目)
|
transmittance1 |
transmittance2 |
average absorbance |
最適レンジ3 |
99.7 |
99.6 |
0.00152 |
(ii)錯体の組成比の決定
1日目の実験の結果より、今回の実験での最適波長と最適pHが分かる。最適波長はレンジ3の517nmで、最適pHは試薬(e)を加えたとき4.72であると考えられる。この条件を選んだ理由については考察に書く。
表6 錯体の組成比
モル比(Fe2+:dipyridyl) |
transmittance1 |
transmittance2 |
average absorbance |
corrected absorbance |
1:1 |
80.9 |
80.8 |
0.09232 |
0.09080 |
1:2 |
64.9 |
64.9 |
0.18776 |
0.18623 |
1:3 |
53.0 |
53.0 |
0.27572 |
0.27420 |
1:4 |
50.0 |
50.0 |
0.30103 |
0.29951 |
1:6 |
50.0 |
50.0 |
0.30103 |
0.29951 |
1:8 |
51.9 |
52.0 |
0.28441 |
0.28289 |
1:10 |
49.9 |
50.0 |
0.30146 |
0.29994 |
図3 錯体組成の決定
2,2’-dipyridylが添加されないと、Fe2+溶液は錯体を形成することが出来ず、透過率はセル補正の値と同じになると考えられる。よって、モル比が0(2,2’-dipyridylが添加されていない)の時にはy切片も0(吸光度も0)になると考えられる。
また、2,2’-dipyridyl溶液のfactorを無視すると、実験操作(B)の(2)〜(3)までのFe2+:2,2’-dipyridylのモル比は1:10である。これを基にして、表6は作成してある。しかし、図3のグラフは2,2’-dipyridyl溶液のfactorを考慮してある。2,2’-dipyridyl溶液のfactorは0.9863である。
最小二乗法を用いて、切片を通るモル比1:1〜1:3までの傾きは0.0931である。また、モル比1:4〜1:10まではほぼ等しい吸光度を示しているが、モル比が1:8の時だけ他の吸光度より大きくずれている。これを排除し、モル比が1:4,1:6,1:10のときの吸光度の平均値は、
である。この値をモル比1:1〜1:3までの傾き0.0931で割れば、錯体の組成比が分かる。
0.29965/0.0931=3.2185
ここで出た値は3.2185と、整数値の3に近い。倍数比例の法則からFe2+の2,2’-dipyridyl錯体の組成はモル比でFe2+:2,2’-dipyridyl=1:3であると推測で出来る。
(3)3日目
(i)セル補正
1日目の結果から最適レンジと考えられるレンジ3について、対照試料である精製水での測定用セルの透過率を調べた。
表7 セル補正(3日目)
|
transmittance1 |
transmittance2 |
average absorbance |
最適レンジ3 |
99.3 |
99.2 |
0.00327 |
(ii)検量線の作成
今回の実験での最適波長,最適pH,錯体組成が分かっている。この結果を用いて検量線を作成した。最適波長はレンジ3の517nmで、最適pHは試薬(e)を加えたときである。さらに、錯体の組成比が1:3であるから3倍以上の2,2’-dipyridylを添加すればよいので、2mlを加えた。ここで、Fe2+の標準溶液の濃度C [mg/L]を算出する。
Fe2+の標準溶液10mlを50mlに希釈して、検量線を測定する事を基準とした。よって、Fe2+の標準溶液を1,2,3,4,5ml採取して、これを希釈して各の濃度の検量線を作成した。Fe2+の各濃度Ci[mg/L]を算出する式は以下の式である。ただし、採取したFe2+の標準溶液の容量をVi[ml]とする。
表8 検量線
濃度Ci [mg/L] |
transmittance1 |
transmittance2 |
average absorbance |
corrected absorbance |
1.117 |
92.8 |
92.8 |
0.03245 |
0.02918 |
2.234 |
86.6 |
86.9 |
0.06173 |
0.05846 |
3.351 |
80.6 |
80.8 |
0.09313 |
0.08986 |
4.468 |
75.1 |
75.1 |
0.12436 |
0.12109 |
5.585 |
70.0 |
70.0 |
0.15490 |
0.15163 |
図4 検量線
図4のグラフの式は、A=0.0275C−0.0022である。また、平均二乗誤差は0.9999であった。図4は有効数字を無視して、出来るだけ多くの桁数を利用した。有効数字を3桁での式は、A=0.0276C−0.0023であり、平均二乗誤差は0.9999であった。
(iii)モル吸光係数の算出
(3)の(ii)で検量線のグラフの式から、モル吸光係数を算出する。
Fe2+1mg当りの物質量はFeの原子量55.85とすると、1.00×10-3/55.83 [mol/mg(Fe)]である。またランバート・ベールの式はε=A /cLと変換できる。有効数字を無視して得た式はA=0.0275C−0.0022であるので、濃度C [mg/L]をモル濃度c に変換すると、傾きもモル濃度に比例する形に変換しなくてはならない。さらに、各濃度も10ml採取して50mlに希釈したと考えなくてはならない。セルの幅L[cm]を1cmと仮定して、切片補正をすると、モル吸光係数ε[L/ mol cm]は、
ε=0.0275×{ 55.83/(1.00×10-3)}×5/1−0.0022=7679.37
となる。
同様に、本実験での測定値は有効数字3桁なので、有効数字3桁で関係式を用いてのモル吸光係数ε[L/ mol cm]は、
ε=0.0276×{ 55.83/(1.00×10-3)}×5/1−0.0023=7707.30
である。
(iv)未知試料の定量
未知試料4種の中からAとBを選んで定量を行った。各未知試料を(ii)の検量線作成の条件と同じ条件で測定した透過率を表に示す。
表9 未知試料
未知試料 |
transmittance1 |
transmittance2 |
average absorbance |
corrected absorbance |
A |
89.1 |
89.0 |
0.05037 |
0.04710 |
B |
82.7 |
82.8 |
0.08223 |
0.07896 |
ここで、有効数字の桁数によるモル吸光係数と未知試料の濃度の違いを示す。未知試料の濃度を算出方法は、(3)の(ii)で得られた濃度と吸光度の関係の式に、補正した吸光度を代入して求めた。
表10 有効数字の桁数よる違い
|
有効数字 ∞ |
有効数字 3桁 |
差 |∞−3桁| |
モル吸光係数 [L/mol cm] |
7679.37 |
7707.30 |
27.9249 |
未知試料Aの濃度 [mg/L] |
1.79260 |
1.62319 |
0.16942 |
未知試料Bの濃度 [mg/L] |
2.95136 |
2.77899 |
0.17238 |
4.考察
(1)吸光度の補正
セル補正で求めた透過率を用いて、吸光度を補正する。
セル補正で求めた透過率は対照セルに比べて、試料セルで入射光が何らかの理由により減光して透過率が1(100%)を示さないのである。よって、試料セルに試料を入れたとき、試料濃度と錯体生成剤濃度が溶媒量に比べて極端に少ない時の各透過率は1に近似できる。検出試料の入射光の強度,透過光の強度,透過率,吸光度をそれぞれI0 ,lt ,T,Aとして、セル補正での射光の強度,透過光の強度,透過率,吸光度をI0’ ,lt’ ,T’,A’とする。そうすると、’対照セルでの入射光はI0 ×Tなるので、
log (I0 ×T’/lt) =log {(I0
/lt )×(lt’ /I0’)}
=log (I0 /lt ) −log (I0’
/lt’ )
=log (1/T) ーlog (1/T’)
=A−A’
と、補正した真の吸光度が算出できる。ただし、今実験ではI0 =I0’である。
(2)最適波長517nm(レンジ3)を選択した理由
目的成分であるFe2+を含む錯体の吸収曲線(図1)で極大吸収波長でためである。極大吸収波長が良い理由は、感度が高く、波長の設定に多少の誤差があっても吸光度への影響が少ないためである。
(3) 試薬(e)を添加した時が最適pHであると考えた理由
図2を見ても分かるように、実験で得たグラフの形は台形である。錯体生成剤(Lewis塩基)がブレンスッテドの塩基としても働くためにpHの変化を得た結果である。しかし、錯体生成を妨げになるほどの大量の酸や塩基がない限り、錯体生成剤の濃度はpHによって変化しない。これは錯体ー配位子錯体が配位子緩衝剤として働いているためである。
そのため配位子緩衝剤として働いている領域が最適pHの領域だと考えたれる。その領域の中で、特に中央部分はpHが多少変化しても大きな影響を受けにくいので、台形の上程部分の中央に近いpHになったときに加えた試薬(e)をpH調整剤として選択した。
(4)検量線の作成
検量線の作成のグラフ(図4)は、有効数字を出来る限り多く使って作成した。その式は、A=0.0308C−0.0022である。Aは吸光度で、CはFe2+の濃度[mg/L]である。平均二乗誤差が0.9999と極めて1.000に近い事から、かなり精度がいい実験であったのでないかと思う。しかしながら、本実験では測定値の有効数字は3桁である。有効数字3桁で求めた関係式もまた、平均二乗誤差は0.9999であった。その式は
A=0.0276C−0.0023である。有効数字の桁数による式の係数などの影響は小さい。また、有効数字が3桁でも平均二乗誤差が0.9999と1.000に近い事からも多少の測定誤差は影響しにくいとの言えると思う。
(5)モル吸光係数と未知試料の濃度決定
モル吸光係数は有効数字に関係なく、理論値とは大きく外れた。これは使用したセルの溶液が入る幅が1cm未満であったためであろう。他には、Fe2+の原液または標準溶液の濃度が濃かったという問題もある。これに関連して、未知試料の濃度算出で理論値よりも薄い値が出てしまったのかも可能もある。
また理論値からの誤差が近い有効数字3桁の方が、実験者の統計誤差が出たと考えやすく、実際にはこちらの方が実際の値に近いのでないだろうか。
表11 理論値との比較
|
有効数字
∞ |
有効数字
3桁 |
理論値との差(∞) |
理論値との差(3桁) |
モル吸光係数[L/mol cm] |
7679.37 |
7707.30 |
970.63 |
942.7023 |
未知試料Aの濃度[mg/L] |
1.79260 |
1.62319 |
0.20740 |
0.37681 |
未知試料Bの濃度[mg/L] |
2.95136 |
2.77899 |
0.04864 |
0.22101 |
注)モル吸光係数の理論値はε=8650で、波長λ=522nmで測定したものである。
(6)最適条件の結果から、水中のFe(U)の定量標準操作
@光度計のスイッチを入れ、20〜30分待つ。
A波長を517nm(フィルター3)に合わせて、精製水でセル補正をする。測定は2回行う。
B測定したい溶液をホールピペットで10ml,10%塩酸ヒドロキシルアミン溶液を2〜3滴,ホールピペットで2,2’-dipyridyl溶液2ml,pH調整剤(試薬(e) pH=4.72) 2mlを記載の順番に50mlメスフラスコに入れ、精製水でメスアップする。
Cよく攪拌して、20〜30分の一定時間をおく。
D調製した溶液でセルを共洗いして、セルの2/3程度まで溶液を入れ、セルの周りの水分をティッシュできれいにふき取る。
E手前のセル(対照試料=精製水)を使って、0%合わせと100%合わせをする。
F透過率を測定する。測定は2回行う。
5.課題
(1)記載されている表を整理し、データから分かる新たな数値を使いした。
表12 鉄サンプル中のマンガン
Sample Number |
1 |
2 |
3 |
4 |
6 |
Unknown |
Mn [%] |
0.160 |
0.256 |
0.360 |
0.480 |
0.600 |
a |
Weight of sample [g] |
0.4400 |
0.4096 |
0.3896 |
0.4160 |
0.4016 |
0.3928 |
Weight of Mn
[mg] |
0.704 |
1.049 |
1.403 |
1.997 |
2.410 |
b |
Transmittance [%] |
64.86 |
52.12 |
41.98 |
28.91 |
22.39 |
34.83 |
Absorbance |
0.1880 |
0.2830 |
0.3770 |
0.5390 |
0.6499 |
0.4580 |
マンガンの重さ[mg]は、サンプルの重さ[g]とマンガンの含有率[%]をかけた値である。すなわち、
・・・・ (*)
である。マンガンの重さ[mg]と吸光度の関係を表したグラフと下記に示す。
図5 鉄サンプル中のマンガン
図5の直線の式は、y=0.2706x−0.0019である。平均二乗誤差は1.000である。透過率が分かっているため吸光度が分かるので、マンガンの重さb[mg]がわかる。
であるから、未知試料中のマンガンの重さb[g]は1.700[mg]である。(*)式から、未知試料鉄サンプル中のマンガンの含有率[%]は、
である。よって、未知試料中のマンガンの含有率aは0.4328[%]である。
(2)連続変化法
金属イオンMと配位子Lの錯体MmLnを作るものとすれば、a,bをそれぞれMとLの初濃度、xを錯体生成濃度とすると、平衡状態では、
である。この方法ではMとLのモル濃度の和(a+b)が一定値cと取るようにaとbを取るように、aとbの値を変えて錯体生成体の量を調べるであるので、次のように変換する。
金属イオン濃度aを0からcまで変化させたとき、錯体濃度cが極大となる条件は、dx/da=0である。mb=naとなればよい。m/(n+m)=a/cを誘導できる。
したがって、金属イオン濃度aと試薬濃度bの和c=a+bを一定に保ち、a,bの割合を変えて錯体濃度(吸光度)を測定するとき、縦軸にx(吸光度)、横軸にa/cをプロットして、xの極大に対応するa/cを求めて、錯体組成を決定する事が出来る。
測定条件では、金属イオンまたは配位子の吸収がなく、錯体のみが吸収を示す事が望ましい。止む得ない場合は、それらの吸収分を図上で補正して、組成を決める事が出来る。実際に組成を決定する場合には、モル比法と必ず平行して行い結論を出しようにする。
6.参考文献
白井恒雄,厚谷郁夫共著:機器分析化学の基礎,丸善株式会社,1985
H.FREISER著:分析化学 −理論と計算−,東京化学同人,1994
阿部光雄編著:基礎化学選書20 分析化学実験,裳華房,1986
江藤守總編著:機器分析の基礎,裳華房,1998
玉虫文一ら編集:理化学事典 第3版増補版,岩波書店,1986