1.目的
有機合成化学実験の初歩操作を組み合わせて、アゾ色素を合成し、基本操作を習得する。また、アゾ色素を合成するためにはジアゾカップリング反応が必要である。芳香族における求電子置換反応を利用したジアゾカップリング反応について理解する。
2.実験器具
今回の実験で用いた実験器具を下記の表に示す。
表1 実験器具
品名 |
規格 |
数量 |
品名 |
規格 |
数量 |
ビーカー |
50ml |
2 |
駒込ピペット |
2ml |
1 |
|
100ml |
3 |
金網 |
|
1 |
|
300ml |
1 |
減圧デシケータ |
|
1 |
|
500ml |
1 |
桶(プラスチック製) |
1 |
|
試験管 |
中 |
1 |
洗浄ビン |
|
1 |
|
小 |
1 |
薬さじ |
|
1 |
吸引ビン |
100ml |
1 |
ミクロスパーテル |
2 |
|
|
500ml |
1 |
ピンセット |
|
1 |
軍手 |
|
1 |
アルミボール |
|
1 |
ゴム手袋 |
|
1 |
温度計 |
100℃ |
1 |
三角フラスコ |
50ml |
2 |
メスシリンダー |
1 |
|
ブフナー漏斗 |
5.5cm |
1 |
クノッフェン |
|
1 |
ガラスロート |
70ml |
1 |
アーリン冷却管 |
|
1 |
ガラス棒 |
|
2 |
ろ紙 |
|
数枚 |
3.試薬
今回の実験で用いた試薬を下記の表に示す。
表2 試薬
スルファニル酸 |
|
酢酸 |
2-ナフトール |
|
濃硫酸 |
N,N-ジメチルアニリン |
|
炭酸ナトリウム(無水物) |
エタノール |
|
亜硫酸ナトリウム |
アジチオン酸ナトリウム |
|
水酸ナトリウム |
アニリン |
|
硫酸ナトリウム(無水物) |
pH試験紙 |
|
塩化ナトリウム |
4.実験操作
(1)スーダンTの合成と精製
(i)下記の4種の溶液を調製した。
(A)100mlビーカーに濃塩酸3mlをとり、ドラフト中で氷冷しながらアニリン0.8mlをゆっくり加えた。さらに、氷冷し10℃以下とした。
(B)100mlビーカーに亜硝酸ナトリウム0.6gをとり、水道水15mlを加えて溶かし、これも氷冷して10℃以下とした。
(C)300mlビーカーに水酸化ナトリウム0.5gをとり、2-ナフトール1.2g,水道水35mlを加えて溶解させ、これも氷冷して10℃以下とした。
(D)100MLビーカーに水酸化ナトリウム0.5gをとり、水道水15mlを加えて溶かした。
(ii)液温を10℃以下に保って、上記で調製したA溶液をかき混ぜながら、B液を少しずつ加えていった。すべて加え終わりしばらく攪拌した後、ヨウ素カリウムデンプン紙でジアゾ化の終点を確かめた。0.5mlを小試験管に取り、加熱し臭いと色の変化を調べた。
ジアゾニウム塩の生成の反応式
ヨウ素カリウムデンプン紙での反応
2kI+2NaNO2+4HCl → I2+2NO+2H2O+2KCl+2NaCl
(iii) (ii)で調製した溶液を、10℃以下にしてあるC溶液に入れかき混ぜた。
(iv) (iii)で調製した溶液に、D溶液を入れ30分間かき混ぜた。
(V)30分攪拌し続けたものを吸引ろ過し、固体を水で洗浄した。この操作を計3回繰り返した。
(vi)質量を測定した紙箱に固体を移し、減圧デシケータで1日乾燥させた。
(vii)乾燥させた固体(粗製スーダンT)の質量を測定する。
図1 再結晶装置 |
(viii)固体(粗製スーダンT)の1gを量り、三角フラスコに入れ、
さらにエタノール20mlを加えた。三角フラスコに還流冷
却管付け、右の図1のような装置を組み立て、湯浴上で溶解
させた後、始めは放冷した。溶液が室温まで下がったので氷
冷した。
(ix)クノッフェンを用いて、析出した結晶を吸引ろ過した。
(x) 質量を測定した紙箱に固体(精製スーダンT)を移し、減圧デ
シケータで乾燥させた。
(xi) 精製スーダンTの質量を測定する。
(2)オレンジUとメチルオレンジの合成と精製
(A)スルファニル酸にジアゾ化
(i)100mlビーカーに、スルファニル酸2.3gと炭酸ナトリウム0.7gをとり、水道水25mlに加熱して溶解させた。
(ii)溶液を冷却し、亜硝酸ナトリウム1.0gを加えて溶解させる。すべて溶解したら、50mlビーカー2つに約等量(約12.5ml)ずつに分けた。2つの100mlビーカーにそれぞれに氷約6gと濃塩酸1.5mlを入れ、これに50mlビーカーのものを入れる。5分ほど攪拌する。(氷冷しながら、これら作業は行った。)
(iii)粉末状の白い沈殿が生成した。これを観察した後、次の操作に移った。
(B)オレンジUの合成と精製
(i)100mlビーカーに2-ナフトール0.9gを取り、10%水酸化ナトリウム水溶液5mlで溶解させた。
(ii) (A)で調製した沈殿のある溶液に、かき混ぜながら(B)(i)の溶液を加えた。
(iii)沈殿が析出したのでその結晶泥を10分間攪拌し続け、その後結晶すべてが溶解
するまで直火で加熱をした。
(iv)食塩2.5gを加えて、さらに加熱しすべてを溶解させた。荒熱をとり氷冷した。室温ぐらいまで冷えたら、かき混ぜて全体をさらに冷却した。
(v)吸引ろ過をした。飽和食塩水約100mlを用いて、ビーカーをすすぎ、ブフナー漏斗上で固体を洗浄した。
(vi)質量を測定した紙箱に固体を移し、減圧デシケータで6日間乾燥させた。
(vii)乾燥させた固体(粗製オレンジU)の質量を測定した。
(viii) 粗製オレンジUを100mlビーカーに移し、水道水約12.5mlを加えて、加熱して固体すべてを溶解させた。
(ix)液温を80℃まで下げてから、エタノールを約25ml加えた。そして、溶液をよく冷却した。
(x)ブフナー漏斗で吸引ろ過を行った。ビーカーはろ液ですすぎ、結晶すべてをブフナー漏斗に移した。最後に、少量のエタノールで結晶を洗浄した。
(xi) 質量を測定した紙箱に固体を移し、減圧デシケータで1日乾燥させた。
(xii)乾燥させた固体(精製オレンジU)の質量を測定する。
(C)メチルオレンジの合成と精製
(i)試験管でジメチルアニリン0.8mlと酢酸0.7mlをとり、よく混合した。
(ii) (A)で調製した沈殿のある溶液に、かき混ぜながら(C)(i)の溶液を加えた。10分ほど攪拌を続けると沈殿が析出し、粘性の小さなのり状になったので、10%水酸化ナトリウム水溶液9mlを加えよくかき混ぜた。
(iii)加熱して、固体をすべて溶解させた。放冷して荒熱を取った後、氷冷した。
(iv)攪拌して内部までよく冷やしてから、吸引ろ過をした。飽和食塩水約100mlを用いて、ビーカーをすすぎ、ブフナー漏斗上で固体を洗浄した。
(v)質量を測定した紙箱に固体を移し、減圧デシケータで6日間乾燥させた。
(vi)乾燥させた固体(粗製メチルオレンジ)の質量を測定した。
(vii)粗製メチルオレンジを100mlビーカーに入れ、水道水20mlを加え加熱して固体すべてを溶解させた。
(viii)加熱を止め、荒熱を放冷して奪ってから、水冷した。
(ix)ブフナー漏斗で吸引ろ過を行った。ビーカーはろ液ですすぎ、結晶すべてをブフナー漏斗に移した。最後に、少量のエタノールで結晶を洗浄した。
(x) 質量を測定した紙箱に固体を移し、減圧デシケータで1日乾燥させた。
(xi)乾燥させた固体(精製オレンジU)の質量を測定する。
(3)オレンジUの染色テスト
(i)精製したオレンジU0.5g,硫酸ナトリウム2g,濃硫酸5滴からなる溶液を調製した。
(ii) (i)で調製した溶液を沸点近く加熱して10分ほど試験用の布を浸しておいた。
(iii)溶液から取り出し、放冷し、流水で洗ってから乾燥させた。
(4)メチルオレンジの酸塩基添加テスト
(i)メチルオレンジをミクロスパーテル少量試験管にとり、少量の水に溶解させた。これに、希硫酸と水酸化ナトリウムを交互に加えて色の変化を観察した。
(ii)溶液をアルカリ性して、少量の亜ジチオン酸ナトリウムを加えて、加熱し変化を観察した。
4.結果のまとめ
(1)スーダンT
(i)合成過程の変化
反応過程での変化を下記の表に示す。また、記載されていない状況は、無色透明(沈殿なし)の溶液、もしくは変化がなかった場合である。
表3 スーダンTの合成での変化
過程 |
色 |
形状 |
その他 |
|
(A) |
|
肌色 |
顆粒状粉末 |
白煙を上げていた |
(ii) |
|
薄い黄褐色 |
溶液 |
ヨウ素デンプン反応で試験紙が紫に |
(iii) |
|
紅色 |
濃いけんだく液 |
界面上に油のようなもの膜が一部あった |
(iv) |
|
オレンジ→濃紅色 |
少し粘りあり→さらさらに |
|
(v) |
固体 |
紅色→少し黒い紅色 |
岩状の結晶 |
洗浄前→洗浄後 |
|
ろ液 |
黄黒色→黒色 |
|
|
(vii) |
|
朱色 |
岩状の結晶 |
|
(viii) |
|
黒色 |
溶液 |
完全溶解した時 |
(ix) |
固体 |
緑色で金属光沢あり |
針状結晶 |
結晶をつぶすと紅色(結晶内部の色) |
|
ろ液 |
濃い黄褐色 |
|
|
(ii)ジアゾニウム塩溶液の加熱
薄い黄褐色の液体が加熱を進めると茶色になり、さらに加熱を黒に近い茶色になった。溶液の粘性などには変化がなかった。しかし、液色が黒に近くなると消毒液臭いを重たくした感じの臭いがした。これは下記のような反応が進行し、フェノールが生成されたためであると思う。
(iii)収率
スーダンTの合成でのすべての反応を1つの化学反応式にまとめると以下のようになる。
よって、この反応式から化学量論係数を求められる。実際に実験で用いた量が分かっているので、限定反応物質を求められる。これら事を下記の表にまとめた。
注)濃塩酸とは、一般的に塩化水素を39.11%以上含んでいる水溶液のことである。
塩化水素が39.11%含まれている水溶液の密度(1.200[g/ml])を濃塩酸の密度とした。
表4 スーダンTの反応物質
反応物質 |
アニリン |
2-ナフトール |
亜硝酸ナトリウム |
塩酸 |
水酸化ナトリウム |
採取量 |
0.8 [ml] |
1.26 [g] |
0.60 [g] |
3 [ml] |
0.67+0.48 [g] |
密度 ρ [g/ml] |
1.022 |
|
|
1.200 |
|
分子量 [g/mol] |
93.127 |
144.17 |
68.995 |
36.461 |
39.997 |
物質量 M [mol] |
0.00878 |
0.00874 |
0.00870 |
0.0368 |
0.0288 |
化学量論係数 N[-] |
1 |
1 |
1 |
2 |
1 |
M/N [mol] |
0.00878 |
0.00874 |
0.00870 |
0.0193
|
0.0288 |
注)ここでは、有効数字を無視している。その理由としては、質量の各桁の精度はどれも同一である。桁数が少ないとからと言って、測定精度が落ちないためである。
表4より、スーダンTの合成での限定反応物質は亜硝酸ナトリウムである。すなわち、 亜硝酸ナトリウム1モルからスーダンTは1モルできる。
ここで、(ii)で約18mlの溶液中から小試験管に約0.5mlを取ったことを考慮すると、スーダンTの理論収量は下記のようになる。ただし、スーダンTの分子量は248.28 [g/mol]とする。
0.00870×{(18-0.5)/18}×248.28=2.10003
=2.10 [g]
また、小試験管に約0.5ml取ったことをこうしない場合は下記のようになる。
0.00870×248.28=2.16004
=2.16 [g]
スーダンTは粗製・精製共に紙箱に詰めて乾燥させたので、そのときの質量を下記の表に示す。
表5 スーダンTの収量
|
箱の質量 [g] |
箱+スーダンTの質量 [g] |
スーダンTの収量 [g] |
粗製 |
1.57 |
3.30 |
1.73 |
精製 |
0.83 |
1.43 |
0.60 |
よって、粗製スーダンTの収率は
1.73 / 2.16 × 100 = 80.092
= 80.1 [%]
である。また、粗製スーダンTから精製スーダンTでの精製時の収率は
0.60 / 1.00 × 100 = 60.090
= 60.0 [%]
である。よって、スーダンTの精製までの合成全体の収率は
0.801 × 0.600 × 100 = 48.06
= 48.1 [%]
である。
(iv)融点測定
融点測定器(メルテンプ)で粗製スーダンTと精製スーダンTの融点を測定した結果を下記の表にまとめた。
表6 融点測定
|
1回目 |
粗製 |
精製 |
2回目 |
粗製 |
精製 |
溶け始めの温度 [℃] |
|
110.8 |
135.8 |
|
114.0 |
134.7 |
溶け終わりの温度 [℃] |
|
119.7 |
139.8 |
|
121.6 |
138.0 |
(2)オレンジU
(i)合成過程の変化
反応過程での変化を下記の表に示す。また、記載されていない状況は、無色透明(沈殿なし)の溶液、もしくは変化がなかった場合である。
表7 オレンジUの合成での変化
過程 |
色 |
形状 |
その他 |
||
(A) |
(i) |
|
無色透明 |
溶液 |
炭酸ナトリウムを入れると発泡 |
|
(ii) |
|
黄褐色 |
溶液 |
冷却すると白いシャーベット状の沈殿が生成 |
(B) |
(i) |
|
淡黄色 |
溶液 |
界面上に油のようなもの膜が一部あった |
|
(ii) |
|
オレンジ色 |
少し粘りある沈殿 |
沈殿物と溶液が混ざり合っていた |
|
(iii) |
|
黒っぽい血赤色 |
液化 |
粘性はなくなった |
|
(iv) |
|
オレンジ色 |
少し粘りある沈殿 |
加熱する前の状態に戻った |
|
(vi) |
固体 |
きれいなオレンジ色 |
粒子が細かい |
粘性が強い |
|
|
ろ液 |
血赤色 |
|
|
|
(viii) |
|
オレンジ色 |
けんだく溶液 |
加熱すると溶解し、血赤色になった |
|
(x) |
固体 |
オレンジ色 |
粉末状で粒子の細かい |
|
|
|
ろ液 |
赤褐色 |
|
|
(ii)収率
オレンジUの合成でのすべての反応を1つの化学反応式にまとめると以下のようになる。
よって、この反応式から化学量論係数を求められる。実際に実験で用いた量が分かっているので、限定反応物質を求められる。これら事を下記の表にまとめた。ただし、(A)でスルファニル酸けんだく液を等しく2つに分けられたとする。
注)ここでも濃塩酸は、塩化水素が39.11%含まれている水溶液の密度(1.200[g/ml])を濃塩酸の密度とした。
表8 オレンジUの反応物質
反応物質 |
スルファニル酸 |
2-ナフトール |
Na2CO3 |
NaNO2 |
塩酸 |
NaOH |
採取量 |
2.32/2 [g] |
0.91 [g] |
0.68/2 [g] |
1.05/2 [g] |
1.5/2 [ml] |
5 [ml] |
密度 ρ [g/ml] |
|
|
|
|
1.200 |
|
分子量 [g/mol] |
173.19 |
144.17 |
105.99 |
68.995 |
36.461 |
39.997 |
物質量 M [mol] |
0.00670 |
0.00631 |
0.00321 |
0.00671 |
0.0247 |
0.0125 |
化学量論係数 N[-] |
1 |
1 |
1/2 |
1 |
3 |
1 |
M/N [mol] |
0.00670
|
0.00631
|
0.0642 |
0.00671 |
0.00823
|
0.0125 |
注)ここでは、有効数字を無視している。その理由としては、質量の各桁の精度はどれも同一である。桁数が少ないとからと言って、測定精度が落ちないためである。
表8より、オレンジUの合成での限定反応物質は2-ナフトールである。すなわち、 2-ナフトール1モルからオレンジUは1モルできる。よって、オレンジUの理論収量は下記のようになる。ただし、オレンジUの分子量は350.33 [g/mol]とする。
0.00631 × 350.33 = 2.210582
=2.21 [g]
また、オレンジUは水溶液から結晶化する場合、結晶水として2つの水分子を伴う。ここ事を考慮すると、結晶として得られるメチルオレンジの質量は
0.00631 × (350.33 + 2×18.015) = 2.43793
=2.44 [g]
である。
オレンジUも粗製・精製共に紙箱に詰めて乾燥させたので、そのときの質量を下記の表に示す。
表9 オレンジUの収量
|
箱の質量 [g] |
箱+スーダンTの質量 [g] |
スーダンTの収量 [g] |
粗製 |
1.62 |
4.93 |
3.31 |
精製 |
1.59 |
3.38 |
1.79 |
よって、粗製オレンジUの収率は
3.31 / 2.44 × 100 = 131.55
= 132 [%]
である。しかし、粗製オレンジU中には大量の食塩が含まれている。また、粗製オレンジUTから精製オレンジUでの精製時の収率は
1.79 / 3.31 × 100 = 54.078
= 54.1 [%]
である。よって、オレンジUの精製までの合成全体の収率は
1.79 / 2.44 × 100 = 73.360
= 73.4 [%]
である。
(3)メチルオレンジ
(i)合成過程の変化
反応過程での変化を下記の表に示す。また、記載されていない状況は、無色透明(沈殿なし)の溶液、もしくは変化がなかった場合である。
表10 メチルオレンジの合成での変化
過程 |
色 |
形状 |
その他 |
||
(B) |
(ii) |
|
茶オレンジ→茶色 |
少し粘性のある沈殿溶液 |
かき混ぜていくと色が変化した。 |
|
(ii) |
|
群青色〜茶褐色 |
少し粘性はなくなった |
水酸化ナトリウム溶液の添加時 |
|
(iii) |
|
黒っぽい褐色 |
溶液 |
さらに粘性はなくなった |
|
(vi) |
固体 |
茶色 |
粉末状で |
ぼそぼそした感じであった |
|
|
ろ液 |
濃い黄褐色 |
|
|
|
(viii) |
|
朱色 |
粉末状沈殿あり |
沈殿はコロイド状になっていた |
|
(x) |
固体 |
金属光沢のある金色 |
粘性が強くなめらか |
エタノール洗浄で金属光沢がなくなる |
|
|
ろ液 |
赤褐色 |
少し粘性のある沈殿溶液 |
|
(ii)収率
メチルオレンジの合成でのすべての反応を1つの化学反応式にまとめると以下のようになる。
よって、この反応式から化学量論係数を求められる。実際に実験で用いた量が分かっているので、限定反応物質を求められる。これらの事を下記の表にまとめた。ただし、(A)でスルファニル酸けんだく液を等しく2つに分けられたとする。
注)ここでも濃塩酸は、塩化水素が39.11%含まれている水溶液の密度(1.200[g/ml])を濃塩酸の密度とした。
表11 メチルオレンジの反応物質
反応物質 |
スルファニル酸 |
ジメチル アニリン |
Na2CO3 |
NaNO2 |
酢酸 |
塩酸 |
NaOH |
採取量 |
2.32/2 [g] |
0.8 [ml] |
0.68/2 [g] |
1.05/2 [g] |
0.7 [ml] |
1.5/2 [ml] |
9 [ml] |
密度 ρ [g/ml] |
|
0.956 |
|
|
1.069 |
1.200 |
|
分子量 [g/mol] |
173.19 |
121.18 |
105.99 |
68.995 |
36.461 |
36.461 |
39.997 |
物質量 M [mol] |
0.00670 |
0.00631 |
0.00321 |
0.00761 |
0.0205 |
0.0247 |
0.0225 |
化学量論係数 N[-] |
1 |
1 |
1/2 |
1 |
1 |
2 |
1 |
M/N [mol] |
0.00670 |
0.00631 |
0.00642 |
0.00761 |
0.02052 |
0.01234 |
0.0225 |
注)ここでは、有効数字を無視している。その理由としては、質量の各桁の精度はどれも同一である。桁数が少ないとからと言って、測定精度が落ちないためである。
表11より、メチルオレンジの合成での限定反応物質はジメチルアニリンである。すなわち、 2ジメチルアニリン1モルからメチルオレンジは1モルできる。よって、メチルオレンジの理論収量は下記のようになる。ただし、メチルオレンジの分子量は350.33 [g/mol]とする。
0.00631 × 327.34 = 2.0659
= 2.07 [g]
である。
メチルオレンジも粗製・精製共に紙箱に詰めて乾燥させたので、そのときの質量を下記の表に示す。
表12 メチルオレンジの収量
|
箱の質量 [g] |
箱+メチルオレンジの質量 [g] |
メチルオレンジの収量 [g] |
粗製 |
1.65 |
2.73 |
1.31 |
精製 |
1.58 |
2.41 |
0.83 |
よって、粗製メチルオレンジの収率は
1.13 / 2.07 × 100 = 54.589
= 54.6 [%]
である。また、粗製メチルオレンジから精製メチルオレンジでの精製時の収率は
0.83 / 1.13 × 100 = 73.451
= 73.5 [%]
である。よって、メチルオレンジの精製までの合成全体の収率は
0.83 / 2.07 × 100 = 40.096
=40.1 [%]
である。
(4)オレンジUでの染色
オレンジUを水に溶かすと、溶液の色は赤くなった。加熱をして、溶液から水蒸気が少し上がり始めたので、試験用の布(ガーゼ)を入れた。数分した後、ガーゼを溶液中から取り出すとオレンジ色に染色された。火を止めガーゼを流水ですすいでいくと、ガーゼの色が少し落ちて黄色みがかったオレンジ色になった。
(5)メチルオレンジの酸塩基テスト
乾燥させたメチルオレンジは、金色にオレンジを少し混ぜたような色であった。これをスパチュラで極少量を採取し約3mlの水で溶解させると、溶液の色はオレンジ色となった。ここに、希硫酸を1滴加えると赤桃色〜うすい赤紫色になった。ここに、水酸化ナトリウム水溶液を1滴加えると、溶液の色はほぼ元のオレンジ色にもどった。さらに、水酸化ナトリウム水溶液を1滴加えると、溶液の色は先ほどのオレンジ色より少し黄色っぽくなった。
酸性溶液下で、メチルオレンジ溶液が赤くなったのは以下の反応で共鳴を起こしているためである。この共鳴が発色の原因である。
塩基性にした溶液に亜ジチオン酸ナトリウムを加えて加熱していくと、溶液の色はどんどん薄くなっていき、最後は完全に無色透明で沈殿のない溶液になった。この反応は、次のページにある反応が進んだためではないかと思う。
その根拠はジアゾニウム塩特有の赤系の色が消えたため、N-Nの二重結合がなかったと考えたためである。さらに、亜ジチオン酸イオンは還元剤であるからである。
また、無色になった溶液が油層と水層で二層にならなかったのは、反応生成物と考えられる化合物、スルファニル酸ナトリウムとp−アミノN,Nージメチルアニリン(N,N-dimethylbenzene-1,4-diamine)がイオン性の官能基を持っていると考えた。しかし強塩基性溶液ではアミン系物質は遊離されてしまうので、相が分離する可能性もあるが、溶液の濃度が薄いため水溶液中に溶けてしまったと考えられる。
5.考察
スーダンTの一連の合成過程で、粗製の収率が約80%と高かったのは、結晶の粒子が細かく、水分が完全に蒸発せず結晶が完全に乾燥していなかったためではないかと思う。減圧デシケータに半日しか入れおらず、見目にも水分を含んでいるような感じが見られた。実際に粗製物の大きな塊を砕いたときの割れ方も、水分を多少含んでいるような感じであった。これは粗製物から精製物への収率が約60%であったことでも分かる。このときは約1週間減圧デシケータ中で乾燥したため、きちんと水分が取れため、収率が低くなったのではないかと思う。精製までの合成過程全体の収率が約50%と低かったのは、ジアゾニニウム塩が分解したためではないかと思う。そのため、ジアゾ化以降の反応が起きることが出来なかったため収率が下がった。融点測定では、粗製物・精製物共に結晶が溶け始めの温度と溶け終わりの温度差が大きかった。これは結晶が融解し始めた時に、温度上昇を制御するレンジを変えずに加熱し続けてしまったためである。完全に融解を確認している間にも温度が上昇してしまった。しかし、粗製物の融点幅が精製物の融点幅の2倍であり、粗製物の融点は精製物の融点より約20℃低かった。このことから、粗製物よりの精製物の方がスーダンTの純度は高いといえる。
オレンジUの粗製時の収率が100%を超えているのも、スーダンTと同様に乾燥させた粗製の結晶に多くの水分を含んでいるためだと思う。これは結晶の粒子が細かく微粉末状になっていたのも要因のひとつであろう。しかしながら、6日間減圧デシケータで乾燥させたので水分を多く含んでいるとは考えにくい。結晶水としてオレンジUに付いて可能は考えられるので、結晶水が2分子以上付いているのではないだろうか。さらに飽和食塩水を入れてオレンジUを塩析した際に、オレンジUだけではなく水溶性の副生成物までも塩析されたのだろう。また食塩はナトリウムイオンの共通イオン効果で析出し、これも粗製物に含まれていたのだろう。精製で再結晶させたときに、粗製時で含まれていた食塩などと水溶性の副生成物はなくなり、エタノール洗浄では結晶水としてオレンジUと強く結合している水以外を除いた。よって、粗製物から精製物までの収率が約5割なので、約半分が不純物だったと考えられる。しかし、精製までの合成過程全体の収率が約7割と高収率になった。これは精製物を減圧デシケータに半日しか入れておらず、完全に水分やエタノールが揮発せずに乾燥が十分に行われていなかったためではないだろうか。
メチルオレンジの粗製時の収率が約55%を低かった。これは同じ日に合成を行ったオレンジUとは逆の結果である。メチルオレンジもオレンジUと同じ割合で水分を含んでいると考えると、粗製から精製までの収率はオレンジUとほぼ等しくなるはずである。しかし実際は異なり、約7割という高収率であった。これらの事から、乾燥させる条件がオレンジUと一緒なので、オレンジUの乾燥させた粗製には水分はあまり含まれていなかった事になる。また、精製までの合成過程全体の収率が約4割という収率になった。精製物を減圧デシケータに半日しか入れていないので、実際には完全に水が揮発せずに完全に乾燥が行われていと考えると、かなり低い収率になる。こうなってしまった原因はスーダンTのとき同様に、ジアゾニニウム塩が分解したためではないかと思う。
6.課題
(1)スーダンTが染色に向かない理由
染色は基本的に、染料分子のイオン性部分が繊維分子のイオン性と結合するため、繊維に染料が定着する。しかし繊維がイオン性染料あっても、セルロース繊維を染色できないものもある。
どちらにしても、スーダンTにはイオン性の官能基がない。よって、そのため染色剤としては向かない。しかし、分散染料としては用いることができる。
(2)メチルオレンジとオレンジUを合成する際に、アゾカップリングを行わせた条件(pH)が異なった。この事について、フェノール,アミン,ジアゾニウム塩の各条件での構造に基づき、条件を変化させて行った理由を説明せよ。
まず、フェノール,アミン,ジアゾニウム塩の酸性と塩基性での構造を示す。ただし、今回のアゾカップリング反応は芳香族の求電子置換反応の1つであるので、アミンはアニリンを、ジアゾニウム塩もハロゲン化ベンゼンジアゾニウムを示した。ここでは、Xはハロゲン元素である。
塩基性水溶液下でのフェノールは、水素を放出しフェノキシドイオンになる。フェノキシドイオンは酸素がマイナスの電荷を帯びているのでベンゼン環に電子を供与して、カルボカチオン中間体が比較的安定化される。しかし、求核試薬の攻撃がオルト位とパラ位に起きると比較的な安定なカルボカチオン中間体が二種生成される。だけれども、2−ナフトールではキドロキシル基のパラ位には置換を起こす事が出来ないので、オルト位に置換を起こす。置換がα位に付いた方がβ位に付いた時より多くの共鳴構造式を書ける。すなわち、安定な化合物なので、α位に置換が起こる。
また、酸性水溶液下でのアニリンは、窒素が水素イオンを得てアニリンイオンになる。 このイオンは正電荷をもっているため、ベンゼン環から電子を吸引するためカルボカチオン中間体が不安定化される。そのため芳香族の求電子置換反応は不活性化される。しかし、求核試薬のメタ位への攻撃で生じるカルボカチオン中間体が最も安定となる。よって、メチルオレンジを合成するときは、酸性化に条件下にしてN, N-ジメチルアミン基((H3C)2Nー)のメタ位でアゾカップリングをさせる事により、目的のメチルオレンジを合成できる。
だか、これは置換が起こる位置の議論にしかすぎない。本質的なジアゾニウム塩の反応性は、塩基性条件より酸性条件の方がよい。もし、塩基性条件下で反応させたいのであれば、出来るだけ弱塩基の条件下で反応させるのが好ましい事になる。先に述べたように、フェノールを塩基で処理をすると、マイナスの電荷を持つフェノキシドイオンになる。フェノキシドイオンはフェノールよりベンゼン環に電子を供与しやすい。すなわち、フェノキシドイオンの方が反応性は高い。しかし、賛成条件が望ましいからといって、酸を多くすると弱酸であるフェノールが遊離されてフェノキシドイオンが少なくなってします。すなわち、酸性度が弱い条件がよい。だかといって、塩基性にするとカップリング反応が起きなくなってしますので、出来るだけ弱い塩基の条件下で反応させるのが最適である。
アミンであるアニリンの場合も同様で、酸で処理すると、正電荷をプラスの電荷を帯びて芳香族の求電子置換反応の反応性を低下させてします。よって、強酸性条件下ではより多くのアミンがプラスの電荷を帯びてしまうので、ベンゼン環から電子を吸引されて不活性になり、カップリング反応の速度が落ちてしまう。よって、この場合は弱酸性条件下で反応を進めるが望ましい。
7.参考文献
モリソン,ボイド共著:モデソンボイド 有機化学(下),東京化学同人,1989
フィーザー著:フィーザー 基礎有機化学,丸善,1974
J.マクマリー著:マクマリー 有機化学概説,東京化学同人,2000
玉虫文一ら編集:理化学事典 第3版増補版,岩波書店,1986
http://themerckindex.cambridgesoft.com/ マルク インデックス ウェブ編
浅田誠一ら著:図解とフローチャートによる新有機化学実験,技報堂出版,2001